正しい裁判の負け方
正しい裁判の負け方
裁判(訴訟)には勝ち負けがあります。
やるからには勝ちたい、勝つために弁護士に依頼したい。
しかし、この考えは半分正しく半分間違っています。
負ける裁判こそ弁護士に依頼する必要があります。
どうせ負けるのに高い弁護士費用は払いたくないと思うのが人情です。
誰でも損はしたくありません。
しかし、負け方次第では、損は弁護士費用どころの話ではなくなる可能性があります。
日本の裁判の勝敗は弁護士の力量で決まる部分はほとんどありません。
では何で決まるのか?
勝敗は「事実」と「証拠」で決まります。
有利な事実と証拠があれば、よほど変な弁護士でない限り勝訴できます。
例えば、「お金を渡した」「返す約束をした」という事実があり、「借用書」という証拠があれば、貸金訴訟の原告として勝訴できる可能性は高い。
また、「お金を返した」という事実があり、「領収書」という証拠があれば、貸金訴訟の被告として勝訴できる可能性が高い。
要するに、誰がやっても勝てそうな裁判は、実際に誰がやっても勝てます。
反対に、誰がやっても負けそうな裁判は、実際に誰がやっても負けます。
勝ち負けに弁護士の力量はほとんど関係ありません(そのため、弁護士が勝率をアピールするのはあまり意味があるとは思えません)。
では誰がやっても負けるのであれば、ますます弁護士に依頼する必要はないのではないか。
しかし、そうではありません。
正しい負け方というものがあるのです。
また例を出します。
「賃貸借契約がある」「賃料を3ヶ月滞納している」「でも居座っている」という事実があります。「賃料を支払った」という事実や証拠はありません。大家さんから建物明渡訴訟を提起されました。
この訴訟の被告はほぼ確実に負けます。
どうせ負けるのであれば、やるだけのことをやって抵抗したい。嫌味な大家さんなので裁判所も分かってくれるかもしれない。
実際にこのような方針をとる弁護士もいるようです。
このケースでいろいろ小難しい理屈を並べてマイナーな法律に当てはめてたくさんの判例を引用しても結局負けます。控訴しても負けます。上告しても門前払いです。もうどうやっても勝つのは無理です。
結局部屋は明け渡す必要があります。加えて、居座った期間の損害金も請求されます。数百万円単位になることもあります。居座り続けても強制執行されます。
これは間違った負け方です。
このケースで正しい負け方とは何か。
まず提訴された時点で負けを認めて明渡すことを約束することです。どうせ裁判を続けても負けるからです。
ここからできるだけ有利な条件を大家さんから引き出すために交渉します。
大家さんが一番困るのは居座られる期間が延びることです。大家さんとしては、早く次の人に貸して正常賃料を受け取りたい。また、建物明渡の強制執行は実は非常にお金がかかるので、できれば自主的に出て行ってほしい。
勝ち戦のはずの大家さんにもこのような弱点がありますから、交渉の余地はあります。
1ヶ月後に引っ越しをする、滞納家賃や損害金は分割払いにする、といった和解ができれば概ね正しく負けています。
このようなケースで滞納家賃を免除してもらったり、引越し代まで出してもらったりすることもあります。ここまでくればもはや負けではない。
このような負け方は、民事訴訟や民事執行の知識や経験がなければなかなか上手くいきません。
そのため、正しく負けるためには弁護士に依頼する必要があるのです。
弁護士を選ぶときには、勝った裁判の話を聞くだけでなく、負けた裁判の話もしっかり聞くことです。